どんぐり学舎

かてごりー:子どもとのくらしの中で

時間ドロボウとわたしたち

ミヒャエル・エンデの『モモ』という物語に出会ったのは

確か小学校5年生の時で

いきつけの児童書専門店で母に買ってもらったその日のうちに

正確に言えば翌朝までかかって一気に

読んでしまった覚えがあります

それがエンデ作品との鮮烈な初対面でした

 

『モモ』の物語は映画化もされ、結構有名ですが

簡単にあらすじを書くと

ある町に住み着いている謎の孤児・少女モモが

町の人の援助でみんなと仲良く暮らしているのですが

その町にやってくる「時間銀行」の行員、灰色の男達が

町の人たちに次々と時間貯金をすすめ、

利子がつくという甘い言葉に町の人はゆらぎ、やがて、

灰色の男達、モモ曰く時間泥棒にどんどん時間を盗まれてしまっていることに気づき

いまはただ、せかせかと

無駄のない、楽しみもない、味気ない暮らしをせざるを得なくなり…

やがてモモは立ち上がり、灰色の男達から

盗まれた時間を取り戻すために旅立つのですが…

 

そんなお話です

初めて読んだ時のわたしはまだ子どもでしたから、解釈は文脈通りで、

ただただ、モモに純粋に惹かれ、物語に吸い込まれました

 

こうして世界中の多くの子どもたちに読まれ、

大人達にも「現代生活へのメッセージだ」と書評され、話題になっていたらしいのですが

エンデ自身が、実は、強大な現代の経済システムへの問題提起を込めて

『モモ』を初めとした多くの作品をのこしたということを知ったのは

恥ずかしながらつい最近のことでした

エンデ自身、そのメッセージに気づいてもらえず数々の書評も「時間」のことだけ

ドイツの経済学者ヴェルナー・オンケンが『モモ』を読んでそのことに気づいて手紙を書くと

エンデも嬉しくてすぐ返事を書いたそうです

この件についてはわたしもまだ勉強中なので(というか何度本を読み返しても難しくて…)

全く解説も感想も書けないのですが…

 

今、言いたいのは、

幼い頃から何度も『モモ』を読んで、わたしに、

わたしだけに伝わってきたメッセージはずっと心の中にあり

年齢を重ね、読む度に変わるそのメッセージにいつもなにか気づかされ

最近やたら周囲が忙しい

友達が

家族が

自分も

忙しい

ときどきふっと目の前を

灰色の男達が横切っているような気がして、どこかにモモを探す

そんな毎日で

思っていることで

 

何年か、何十年か前から、スローフードとか、田舎暮らしでリフレッシュとか、

癒しとか、そういう言葉がわざわざ定義され、それらをお金で買う時代になりました

昔は当たり前だったことが、お金を積まないとできなくなっている

暮らしのために働くけれど、お金のために働くけれど、その先になにが待っているのか

何千万円もの住宅ローンを返済するために

毎日働きに出かけるのだけれど

はたしてその先になにが待っているのか…

 

主婦の仕事は電化され、昔の主婦よりずっと時短になっているはずなのに、

相変わらず「忙しい」、そして手間のかからないカット野菜や加工食品、お総菜の売れ行きが好調

もはやベテラン主婦でさえ当たり前に刻んでいた野菜を刻むことさえしなくなっています

 

男女差なく外で仕事をする時代、ばりばり働きながら主婦業もしている友人はたくさんいます

家事が軽減できるアイディアは外で働く主婦にとっては救いだし、大いに助けになっていて

それでにこやかに、家族でゆったりすごせるなら本当に素晴らしいことです

 

わたしはふたり子どもを授かりました

楽しみにしていた子育てが始まり、

毎日、毎日、せっせと布おむつで育てました

発達心理学の先生が面白い人で、数々の議論を重ねて、わたしは10代にして

いつか子どもを授かったら絶対に布おむつで育てよう、と

楽しみにしていたのです

最初の子を産んで10年たちましたが

友人、親族合わせてこの間布おむつで子育てをした、という同志はわたしの他に2人

5年ほど前に調べましたが99パーセント以上の人が紙おむつを使っているので

お目にかかれないのも無理はありません

なんで?こんなに快適で、こんなに嬉しくて、こんなに幸せなものなのに~

と不思議に思いました

ある日ふと、育児雑誌の特集に「布おむつと紙おむつ、どっちがいいの?」

という記事があったので立ち読みすると、

「布おむつはお肌にも優しいし情操にもいいと言われていますが、

洗濯に手間がかかったり頻繁に取り替えなければならなかったりで大変

それならば紙おむつを上手に使って、洗濯や取り替えにかかるはずの時間、

たっぷり赤ちゃんと向き合って過ごせる方がいいですね!」

というようなことが書いてあり…そのアドバイザーは紙おむつメーカーの方だったので

あ~あ

と思った覚えがあります

紙おむつを使ったらダメだとは思いませんが、その理由は変です

 

布おむつを洗濯している間、布おむつを取り替える間、

その母親は我が子と思いっきり向き合っているのです

今日のうんちはどんなかな、今日はおしっこの回数が多いな、色もちょっと違うな

はい、とりかえよう、ごろんして、カバーをはずしてにこにこ、おなかをマッサージ

今、思い出しても愛おしい時間です

小学生のむすめたちと遊びながら

ごろんしておむつ替えの姿勢にして脚の方から顔を見ると

赤ちゃんの頃と同じ表情

懐かしくて可愛くて、たまらないのです

なぜかじっとしているむすめたち

彼女たちもなにか覚えているのでしょうか

そしてなにより真っ白になったおむつをお日様にあてて、干す時

からっからに乾いたおむつを、きれいにたたんでしまう時

何とも言えない幸福感に満たされます

上の子が、折り紙のように丁寧に畳むのを手伝ってくれたのも、

あったか~い思い出です

 

排泄物に触れることなく

何回分か確認することもなく

赤ちゃんの排泄物が「ごみ」として捨てられる紙おむつ

元々は戦時中の綿布不足で

布おむつの代用品として外国で発明された紙おむつですが

使い捨て商品の中でも大きな(ゴミの)シェアを占める現在

おしっこ何回分、とうたわれ、高分子吸収剤もふんだん、

いつも快適、ということは

不快を快適にするという親子コミュニケーションの基本さえ奪ってしまいます

何回も溜めないで出たかな~と確認して1回でもしていたら取り替えてあげればいいけれど

そんな風に紙おむつを使うひとは(ユーザーに聞くと)あまりいなそうです

高分子吸収剤や実際は紙ではなくケミカルなかみ…ケミおむつと呼んでしまいますが

それが赤ちゃんの肌や性器に及ぼすあまりよくない影響も、あるようです

 

時間ドロボウ…

そう、わざわざ洗わなくても、使い捨てなら時短です

わざわざ寝かせなくても、立ったまま、CMでも見ますが、

歩いているのを後ろからつかまえてさっと履き替えさせれば、時短です

時短、時短、でその残った時間は?

メーカーの人のいうように、赤ちゃんと向き合うために、向き合いたいから時短しているのか

向き合うというのは、赤ちゃんそのものと向かい合って遊んでやることをいうのか、

昔のお母ちゃんは、朝から火をおこし、水を汲み、赤ん坊を背負って家事をして、

そして畑仕事をしました

赤ちゃんは背負われっぱなし、もしくはかごのなかであぜ道、

少し大きくなると上の子に背負われて学校へ行ったり

お母ちゃんの家事をしているそばで遊び、お母ちゃんについて畑に行き、遊び、

たぶん、お母ちゃんは子どもとどっぷり向き合って遊ぶ時間なんかそれこそなかった

お母ちゃんと公園に行って遊ぶことも

お母ちゃんとおもちゃで遊ぶこともなかったかもしれません

でも…

家事は時短され、育児も時短され、

昔のお母ちゃんより残っているはずのたっぷりの時間はどこへ行ってしまったのか

わたしたちの心は、そして、子どもたちは時短によってその頃より豊かになったのでしょうか

 

『食品の裏側』で有名になった食品添加物の専門家、安部司さんの講演会に行って思いました

彼もかつてはわたしが思うに時間ドロボウでした

きちんと手間と時間をかけて出しをとってつゆを作っていた蕎麦屋に飛び込んで

「そんな手間と時間をかけるよりこの粉を使えば一発で同じ味」と添加物を売り込みました

お蕎麦屋さんは時短で準備できるようになりました

本当に同じ味で、より美味しくなったつゆで店も評判になったことでしょう

でも、それで幸せだったのでしょうか

飲食店を経営している知人によれば、化学調味料を使わないと客が減る、

という現状

今や家庭でも出しをとるより食品添加物で味をつけていますから、

多くの人の舌がその味を求めているのでしょう

美味しければいいのでしょうか

美味しくて、早ければいいのでしょうか…

現在、安部さんは食品添加物の危険性や気持ち悪さを知らしめるため

全国を飛び回って講演しているわけですが…

時間ドロボウだったころに多くの職人さんやメーカーさんから盗んだ時間は

返してあげたのでしょうか…いま、その最中なのでしょうか…

 

わたしたちのまわりには時間ドロボウがたくさんいます

でも、盗まれたことに気がついて、モモのように取り返しにかかっている人もいます

 

たとえば、身近に、添加物を使わず、調味料までも手作りし、

食材を厳選して料理してくれる料理人がいます

手間暇かかるでしょうが、これが本物のプロの味なんだ、と納得させられる素晴らしい料理です

 

たとえば、除草剤をまかずに手で草を刈り取る地域があります

除草剤を使ってしまえば楽なのに、田んぼのため、生き物のため、近所の子らのため

 

時間ドロボウに耳を貸さず、そんな生き方を貫いている人は

ちゃあんと、います

とっても少ないし、とっても生きづらいだろうけど…

でも大丈夫、お天道様はみています

誇れる生き方です

 

子育てでは特に、気をつけないといけないと思います

子どもたちは純粋で、正直で、敏感です

わたしたち大人は、盗まれてしまったあとの限られた時間の中で、疲れ切って、

本来なら幸福で満たされるはずの「我が子との時間」でさえも

楽しめる余裕がなくなっている時があります

ゲームを与えておけば、テレビをつけておけば、

とりあえず静かにしていてくれる

夢中になるほど美味しい食べ物はそこいらじゅうに売っていて、

その味を覚えさせてしまえば

ただのじゃがいもをふかしたのなんか美味しいと思ってくれなくなります

それでも、ふかすより買ってきてしまった方が楽…

大人の都合で子どもたちは

その可能性も本来持っているはずの生きる力も

削がれてしまっているのではないでしょうか

 

一見、時間がかかるように感じることでも、実際にはその分の豊かな満足感が得られます

手間暇かけてものを作ると、かけがえのない幸福感が

手間暇かけて子どもたちを育てれば、かけがえのない絆と、子どもたちの成長が待っています

 

 

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